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2008年03月19日
リセット願望と長靴をはいた猫

僕はときどき激しいリセット願望に襲われることがある。
それはしばしば湯船につかっているときにやってきて、
僕の頭の中を理不尽なくらい容易に満たしていく。

ああ、風呂から出たときに
クローゼットの中の服が全部消えていて、
代わりにその分のお金があったらなあ。
そうしたら、それを使って新しい服を買うのに。
とまあそんな感じだ。

そんなとき僕は、
『長靴をはいた猫』の話を思い出す。
主人を出世させようと
彼を裸のままの姿で川の真ん中に立たせておき、
お姫様を乗せた馬車が橋のうえを通りがかったときに
馬車を立ち止まらさせて
「主人が水浴びをしている間に
服を盗賊にとられてしまった」
とか何とか訴えて新しい高価な服をもらう場面だ。

僕がこうしてバスタブにつかっているとドアが突然開き、
そこには長靴をはいた猫が立っている。
「やや、君は誰だ?」と僕は尋ねる。
「やだなあ、ボクですよ、ボク。
ほら、谷中霊園でフェンスに首を突っ込んだまま
抜けなくなっていたところを助けていただいたものです」
と猫は答える。
本当かなあ、俺そんなことしたっけかなあ。
そう思いながらも口には出さないでおく。

「今日はその恩返しにきました。
お見受けしたところ、
現在お持ちの服に対して
不満を抱いておられる様子でしたので、
ボクが代わりに処分しておきました。
これであなたは
生まれたままの状態に戻ることができたわけです」
なんてね。

しかし
21世紀のシティー・ライフ(死語)を営む者にとって、
これは結構キツいことではないか?

そもそも金があったって、
店までどうやって行けばいいというのだ?
まさかバスタオルを腰に巻いたままの姿で
赴くわけにもいくまい。

そりゃまあ、
インターネットで注文することもできるのだろうけれども、
実際に試着してないからそれはあくまでも
「間に合わせ」の服にしか過ぎない。
そうなるとまた
クローゼットのなかに余計なものが存在することになり、
僕の欲望は完全に果たされたことにはならない。

隣りの部屋の人に服を借りようにも、
サイズが合わなければアウトだろうし、
もしもそれが女性だった場合、
警察の厄介になる可能性もないわけではない。
(なにせ僕はバスタオル一枚の姿なのだ)

そんなことを考えていると、
やっぱりこのままでいいやと思う。
だからもし、風呂のドアを開けたところに
長靴をはいた猫が立っていたとしても、
僕は丁重に申し入れを辞退するつもりである。

しかしこんな風に妄想を膨らませていると
すっかり湯冷めしちゃうよ。へっくし。